荒井義行の平成意見箱/曖昧なソシオ・フリエスタ憲章
数千人のソシオは外に置かれた存在という印象が強い
「横浜FC」のチーム結成披露レセプションが、3月8日に横浜駅前のホテルで行なわれた。奥寺康彦ゼネラルマネジャー(GM)、リトバルスキー監督、20人の選手が勢ぞろい。報道陣やサポーターへの正式なお披露目となった。
「ソシオ制度」を採り入れた、日本ではこれまでに例をみない「市民参加型」のクラブとして注目を集め、すでに5千人近い参加申し込みが寄せられ、実際に5千万円を越える会費が振り込まれたという。
これから会則などを整備するというが、もっとも重要な点は、株式会社横浜フリェスポーツクラブとソシオ・フリェスタの関わり方だろう。「ソシオ」はスペインの名門クラブ、バルセロナを下敷きにして「市民が会員(メンバー)となり、資金の面でも運営の面でも自分たちのチームとしてサッカークラブを支える制度です」と説明している。また、参加申し込み書に添えられたパンフレットには、「ソシオとは、"メンバーのクラブ会費により支えられる組織"のことで、チーム強化や人事権(チーム運営への参画企画の権利)などを得ることができる市民参加型によるクラブ経営システムです。メンバーは、その組織を自主管理により運営しながら、代表を選出して、経営陣との協議会を持ったり、会員相互の交流イベントを開催することができます」としている。
一見、整合性がある文章のように思われるが、会員が支払う会費は、株式会社の運営費として使われるのだから、「ソシオ」そのものが"メンバーのクラブ会費により支えられる組織"とはいえないだろう。「経営陣と協議会を持ったり」という点にも曖味さが残る。
まだ会則ができていないので、「ソシオ・フリェスタ憲章」でその方向性を打ち出しているというが、その「憲章」にも多くの曖味さ、矛盾が読み取れる。まず最初の第1項にある「ソシオ・フリエスタ(以下「ソシオ」という)は、スポーツを通じて人を育て、スポーツを通じ町を育てるとの理念のもと、真の市民スポーツクラブの礎となりスポーツ文化の振興に寄与することを目的として設立した」まではJリーグの基本理念と合致するものだが、それに続く「任意団体である」は、なぜ「任意団体」と規定してしまうのか疑問を抱く。
次の項目には「ソシオは、横浜フリエスポーツクラブ(以下「会社」という)の運営するクラブ(以下「クラブ」という)の諸活動に対し、スボンサード、応援、関連イベントの開催グッズ販売等、有形無形のサポートをする」とあるが、「ソシオ」がクラブであって、ここでいう「クラブ」は「チーム」ではないだろうか。
スボンサードとは何を意味するのか分からないが、グッズ販売等で利益をあげるのは「会社」ではないだろうか。ここにも混同が感じられる。
この「憲章」にある「クラブ」は、監督と選手を除けばわずか12人の役員と数人の社員が内なるクラブ員であり、数千人の「ソシオ」は外に置かれた存在という印象が強い。「ソシオ会員が拠出する会費はクラブの運営費に充てられ、これにより、ソシオ会員1人ひとりがクラブに関与する市民スポーツクラブの実現を目ざす」としているが、お金を払っただけでクラブに関与したことになるのだろうか。
「ソシオは、ソシオ会員が選出した代表者を通じて、会社と定期的にクラブ運営について協議するものとし、ソシオ会員1人ひとりの意向がクラブ運営に有能な限り反映されるように努める」となっているが、「有能な限り」とは、どういうことなのか。有能とは能力があること、役にたつことだから「可能な限り」「できるだけ」の意味の間違いと思われるが、協議して会社が不採用とすることもできるのだから「1人ひとりの意向が反映される」ことになるだろうか。「努める」のは「会社」であって、もし主語が「ソシオ」ならば「させる」でなければ意味が通じない。
会社運営の監視も「ソシオは、主要株主の変更、代表者の変更等、会社の事業活動の基本的な変更、または決算報告等、会社の主要な事業活動の内容について、随時代表者を通じ会社から報告を受け、ソシオ会員に対しかかる事由を即時に開示することにより、開かれた組織運営を行なう」としているが、「報告を受け」るだけでいいのだろうか。事業内容はともかく、代表者の変更、主要株主の変更は、報告だけではなく「要求できる」でなくてはならないだろう。「ソシオ」が「開かれた組織運営を行なう」のではなく、「ソシオ会員」は「開かれた運営を要求する権利を持つ」としなければならないだろう。
「ソシオは、その円滑かつ安定した運営のために、ソシオ・フリェスタ憲章の理念、目的に基づき、ソシオ会員の意向を十分に反映したソシオ会員規約を制定、整備する」と憲章だけではすまさない意向もみられるが、会則ではなく規約と表現しているところに、運営会社に対する権利を主張する「会則」ではなく、内部を規制する「規約」を求める傾向が強く感じられる。
憲章に漂う身内意識
Jリーグの他のクラブも、地域密着型を理念とするといいながら、サポーターや地域住民を会社の内部には決して入れず、後援会として外に置いている。日本リーグは何も残さなかったが、Jリーグは浦和、鹿島などいくつかの市民に支えられたクラブを作った―といっても、あくまでも後援会、応援団として内部には採り入れていない。
フリューゲルス、マリノスの合併を機に、企業の論理に左右されない会員クラブを作ろうというソシオの発想だが、誰が作文したのか分からないものの「ソシオ・フリエスタ憲章」を子細に検討すれば、Jリーグのクラブ同様に会社以外のものは「外に置け」という旧態依然の考え方から一歩も出ていない。「外部からいちいち注文を付けられてはたまらない」という意向が、この「憲章」にはプンプンと臭っている。
Jリーグのチームは親会社が出資し、運営会社を設立してチームの運営に当たっている。今回の「横浜FC」は親会社がないのだから、いわば会員として5万円、3万円、法人会員として50万円を拠出してくれる人たちの総合体である「ソシオ」が親会社の役割を果たし、株式会社横浜フリエスポーツクラブは、全日空に対する全日空スポーツの関係に近いだろう。多くのJリーグの運営会社は親会社から社長が送られ、親会社の意向に沿わなければ更迭される。「ソシオ」の意向に沿わなければ、横浜フリエスポーツクラブの役員、GMが変えられるようなシステムにしなければ、真の「ソシオ」会員制クラブとはいえないだろう。
ヨーロッパ、南米にも様々な形態のクラブがあるだろうが、一般的なクラブは会員で組織されたクラブであり、そのほかに運営会社を持つところもあるが、GMの任免権などはクラブの会長が握っている。
前にも書いたが、最近のGMの仕事は監督、選手の採用からお金集めやマーケティングまで含まれているという。監督、選手の力を見抜き、移籍金、年俸の交渉、スポンサー集めに手腕を発揮できず、莫大なお金を使いながら成績が悪ければ、監督ばかりではなくGMも能力がないとしてクビにされる。クラブの会長もGM選びに失敗すれば、会員から辞任を突きつけられるシステムだ。この緊張関係がなければ、クラブの発展は望めないだろう。
7年目を迎えたJリーグが合併やリストラの危機こ見舞われているが、親会社方式で立ち上がるしか方法がなかったとしても、地域に根ざしたクラブ作りを理念に掲げていたのだから、早い時期に会員クラブ方式に切り替えなければならなかったのではないだろうか。
企業に力があるうちに、後援会を外に置くだけでなく、中に採り込めば、これほど急激な危機を避けられたのではないだろうか。
「横浜FC」は、Jリーグが運営会社を設立しなければJ2参入は認められないと求めたので、急きょ株式会社フリエスポーツクラブを設立したが、非営利の市民参加型会員クラブを目ざすなら、むしろNP〇(特定非営利活動促進法)に基づいた法人に切り替えた方が適切かもしれない。
まだ会則の叩き台も示されていないのに、多くの人が、全国から会員加入を申し込み、会費の払い込みに応じているのは、「ソシオ・フリエスタ」「横浜FC」に新しい夢を見て、大きな期待を抱いているからだろう。
会員の投票により役員(理事)を選出、理事会で理事長(会長)を選出するような民主的な組織を構築―「ソシオ」が外に置かれて、ただ会費を拠出するだけで、運営に関与できないのでは意味がない。主体性を持って運営会社に問われるような会則にしなければならないだろう。サッカーだけではなく、総合的なスポーツクラブを目ざすというのなら、最初からハンドボール、スケート、フィットネスクラブといった具合に、1つでも2つでも他のスポーツクラブと提携してスタートすべきだろう。運営会社がサッカーで手いっぱいというのなら、「ソシオ」の仲間にすればいいだろう。
そのためにも、会則は「ソシオ」が主体性を持ったものにしなければならない。ヨーロッパや南米のクラブの会則が、必ずしも日本の土壌に当てはまるとは限らないが、叡知を集めて大いなる実験に挑戦してもらいたい。